ナノ医療イノベーションセンター片岡一則センター長(東京大学政策ビジョン研究センター特任教授)と米鵬主任研究員、東京工業大学西山伸宏教授、量子科学技術研究開発機構青木伊知男チームリーダーらは、がん内部の微小環境において、悪性度や「腫瘍内低酸素領域」をMRIで高感度に可視化できるナノマシン造影剤を開発したと発表した。
現在、MRIは放射線を使わない磁気による画像診断装置として国内で広く普及している。特にがんの診断では、MRI装置自体の性能向上とともに、安全で高機能な造影剤の開発が近年強く求められているという。
研究チームは、MRI造影効果があるマンガン造影剤を「リン酸カルシウムナノ粒子」に搭載したナノマシン造影剤の開発に成功した。本造影剤は生体に安全な外殻で覆われ、がん組織の低pH環境に応答して溶解する。ナノ粒子から放出されたマンガン造影剤が、がん組織のタンパク質と結合することにより、MRI信号が約7倍に増幅する性質があるという。また、がん中心部で信号が顕著に増大する部分は、抗がん剤・放射線治療に抵抗性を示す低酸素領域であるため、この領域を高感度・高精度に可視化できることが判明した。今回、肝臓へ転移した直径わずか1.5mmの微小な大腸がんを高感度で検出することにも成功し、既存のMRI造影剤よりも優れた検出力を示したという。
本ナノマシン造影剤は、臨床で最も広く普及している比較的安価な低磁場MRI装置で、特に優れた信号上昇を示しているため、利用度が極めて高いとされる。また、がんや転移の早期発見、ならびに治療効果の予測や治療効果判定への応用が期待でき、将来的に見落としのない確実性の高いがん診断と治療の実現が期待されるとしている。