慶應義塾大学医学部内科学教室・福田恵一教授、慶應義塾大学病院・國富晃助教らの研究チームは、筑波大学動物実験学研究室との共同研究により、卵細胞が持つ因子を使用して、これまでの方法よりも高品質かつ効率よくiPS 細胞を作製することに成功したと発表。研究成果は、米国科学誌「Stem Cell Reports」にて公開された。
2006年、京都大学山中伸弥教授が報告し話題となった「iPS細胞」。体細胞から簡単に作製でき、さまざまな細胞に分化する能力(多分化能)を備えたものだ。だが現在の技術では、作成されたiPS細胞によって多分化能にばらつきが生じてしまい、再生医療などに応用する際の大きな課題となっていた。
本研究グループでは、遺伝子の初期化が受精直後の段階で達成されることに着目。卵子のもとになる細胞(卵細胞)に含まれる成分が遺伝子の初期化に関わっていると考え、研究を進めてきた。そして卵細胞に含まれる「H1foo」というタンパク質に、iPS細胞の作製に使われる4つの因子のうち3つを加えることでiPS細胞を作製。その作製効率は、3つだけの因子の場合に比べて8倍にまで高まったという。また、H1foo遺伝子を加えることで、iPS細胞を作成できる割合が約50%から90%以上に上昇、さらに、iPS 細胞の品質評価のためにマウスの受精卵に移植して調べたところ、3つの遺伝子だけで作るものよりも高い多分化能を示すことも確認された。
今回使われたH1foo遺伝子には、他の遺伝子の働きをスムーズにする作用があるとみられている。また今後、iPS 細胞は多くの目的とされる細胞へ分化誘導され、さまざまな用途で用いられることが予想される。本研究成果により高品質なiPS細胞を高効率に作製できるようになれば、研究の手間も省け、再生医療の発展に有効な技術になるのではと期待されている。