ネアンデルタール人などの旧人が絶滅した一方で現生人類のみが存続した5万~4万年前頃には、各地で小型石器が増加したことが知られている。ここから、小型石器は「現生人類による優れた発明」というイメージが先行していたが、実際には、小型石器が出現したプロセスや理由については不明な点が多く残されていた。
そこで今回、名古屋大学と米国タルサ大学などのグループは、現生人類によるユーラシア拡散の起点となった西アジアのヨルダン国において遺跡調査を行い、石器が小型化した前後の時期の石器標本を収集した。そして、1万2千点ほどにおよぶ標本を時代ごとに整理し、石器形態の変化や石器製作技術の変化を分析した結果、従来説とは異なる新しい見解を得た。
それは、小型石器は現生人類が発明した新たな道具なのではなく、以前から石器装備の脇役や副産物として存在していたものであり、現生人類は以前から存在した石器形態の新たな活用法を見出し、その製作と使用を拡大させたという仮説である。標本の分析の結果、ネアンデルタール人が消滅し現生人類が増加した上部旧石器時代前期に、小型石器は明確に増加していたが、それ以前にも多様な石器形態や製作技術の一部として存在していたことがわかったのだ。
小型石器の製作と利用が増加した背景については、人類行動生態の観点から説明している。小型石器が主役となった上部旧石器時代前期は、遺跡の数や分布域が拡大しており、現生人類の居住移動性が高まっていたと推測される。このような条件下で、石材消費を節約でき、軽量なため携帯にも便利な小型石器の有用性が次第に認められ、活用されるようになったとしている。
限られた資源を有効に利用し人口を長期的に維持する技術とはどのようなものか、という現代にも関わる問題を考える上でも参考になる知見を、本研究は提供している。