生理学研究所/生命創成探究センターの富永真琴教授らは、関西大学、富山大との共同研究で、蚊やマウスの唾液が、感覚神経の痛みセンサーの機能を阻害することで、鎮痛効果を生じることを明らかにした。
蚊に刺されても通常は、痛みをほとんど感ぜず、刺された後で痒くなって初めて感じる。蚊の口針は長いが、細いため痛みを感じにくい(無痛性穿刺)とされる。蚊が刺すとき放出する唾液は血液を固まりにくくし、痒みをもたらすヒスタミンを放出させる作用がある。しかし、蚊の唾液成分の無痛性穿刺への関与は不明だった。
感覚神経にあるカプサイシン受容体TRPV1とワサビ受容体TRPA1は痛み受容体で、鎮痛に関わっている可能性がある。そこで、研究グループは蚊とマウスを用いて、その唾液がTRPV1とTRPA1に与える影響を検討した。その結果、蚊の唾液は濃度依存的にヒトTRPV1、 TRPA1の機能を抑制し、マウスの唾液もマウスTRPV1、TRPA1の機能を抑制することが判明した。さらに、唾液に含まれるシアロルフィンという鎮痛効果があるたんぱく質が TRPV1、TRPA1の機能を阻害する成分の有力候補になると分かった。
また、マウスの足の裏へのカプサイシンやワサビ成分の投与による痛み関連行動や、ラットの足への機械刺激による脊髄神経の興奮も、蚊の唾液で抑制された。さらに、シアロルフィンにより、カプサイシンによるラット脊髄の神経興奮が抑制された。
これにより、蚊やマウスの唾液が痛みセンサーのTRPV1、TRPA1の機能を阻害して鎮痛をもたらすと結論された。ヒトなど多くの動物がけがの際に傷口を舐めるが、これは唾液による鎮痛の可能性がある。シアロルフィンなどの唾液に含まれる成分の研究が新たな鎮痛薬開発につながることが期待される。
論文情報:【PAIN】Inhibition of TRPV1 and TRPA1 by mosquito and mouse saliva