京都大学大学院の谷戸崇博士課程学生(日本学術振興会特別研究員DC1)と京都大学総合博物館の本川雅治教授は、日本産ネズミ類の雄交尾器の比較形態学的研究を行い、種間の形態の多様性と、遠位部にある側乳頭突起の可動の仕組みとその機能的意義を明らかにした。
ネズミ類の雄交尾器の多様性は、種分化につながる生殖隔離に大きく関係することから、分類学などで重要な形質とされてきた。これまで、陰茎骨を種分類の表徴形質として記載してきた研究は多いが、雄交尾器の機能形態に関する研究はあまりない。また、日本産ネズミ類の雄交尾器の研究は1940年頃に調べられて以来ほとんど研究されていない。そこで、研究グループは、日本産ネズミ類の雄交尾器形態の多様性に着目して研究を行った。
今回、日本産ネズミ科ネズミ亜科6種とキヌゲネズミ科ミズハタネズミ亜科5種の計11種を解剖学的に比較した結果、11種すべてに雄交尾器である陰茎の内部に陰茎骨体が存在し、遠位部に正乳頭突起と2つの側乳頭突起からなる三叉構造を認めた。それぞれの発達程度は種によって大きく異なり、雄交尾器形態の多様性が生じていることが明らかになった。また、組織学的な解析から側乳頭突起が交尾時に外側に可動し、陰茎遠位部の膨張に貢献することが示唆された。組織の周辺に筋組織が確認されないため、側乳頭突起の可動に関与するのは筋肉ではなく血流のみと考えられるという。
本研究成果はこれまで注目されなかった陰茎遠位部の形態が種によって多様であり、ネズミ類の陰茎の膨張様式に機能的意義をもつことを初めて示すもの。雄交尾器の繁殖戦略における役割について新たな知
見につながることが期待される。
論文情報:【Mammal Study】Comparative morphology of the male genitalia of Japanese Muroidea species