東北大学大学院医学系研究科の鈴木淳非常勤講師らの研究グループは、成体マウスの内耳に存在する内有毛細胞(音を受け取り脳に伝える感覚細胞)に、低侵襲かつ高率で遺伝子を導入する方法を新たに確立し、英国科学誌「Scientific Reports」に発表した。
これまで、成人になってから発症する感音難聴は有効な治療法がないため、新しい治療法の研究開発が求められてきた。難聴に対する治療法の有力な候補の一つは、内耳の細胞に対するウイルスを用いた遺伝子導入法であるが、内耳は小さく硬い骨に囲まれているため、内耳を傷つけずにウイルスを投与するのが難しかった。さらに、既存のウイルス型では、内有毛細胞に高率に遺伝子を導入することが困難であった。
そこで、同グループは、特殊なウイルス型を新規に作成し、内耳を傷つけにくいウイルス投与法を組み合わせることで、効率的かつ低侵襲に遺伝子を導入することに成功した。今回、確立した方法により、騒音性難聴や加齢性難聴といった感音難聴に対する遺伝子治療の効果を、様々な疾患モデルマウスを利用して評価できる可能性がある。
アデノ随伴ウイルスは既にヒトに対して臨床応用されていることから、これまで効果的な治療法がなかったヒトの成人発症の感音難聴に対する遺伝子治療の開発に寄与することが期待される。
論文情報:【Scientific Reports】Cochlear gene therapy with ancestral AAV in adult mice: complete transduction of inner hair cells without cochlear dysfunction