東京大学の幸塚麻里子特任研究員らの研究グループは、京都大学や神戸大学と共同で、海洋堆積物に保存された2.9~10万年前の生物のDNA解読に成功した。同定された生物は気候の違いを反映して種類が異なるため、過去の環境変動をも推測できる可能性がある。
海底堆積物は、生物の死骸やバイオマーカーと呼ばれる有益な情報を含んだ有機物が降り積もって形成されている。そのため、過去の生態系や環境を理解するための重要な記録として利用されてきた。しかし、化石やバイオマーカーが保存される生物種は限られており、海底堆積物中では微生物がDNAを分解するため、遺伝子情報の取得も不可能だった。
そこで研究グループは、メタンを栄養源とする微生物が、DNAを分解する微生物の活動を抑制することに着目。新潟県上越沖のメタンが湧き出す冷水湧出帯の海底堆積物を採取した。そして、極微量のDNAから塩基配列を決定できる独自のDNA抽出法を用い、10万年前の試料から、珪藻、放散虫、海藻、陸上植物等を起源生物とする化石DNAの配列を取得することに成功した。比較のため、冷水湧出帯ではない地点も調査し、化石DNAは3万年程度までしか検出されないことを確認。メタンが湧き出す効果は化石DNAの保存に有利であることを明らかにした。また、検出した陸上植物種とその年代が、古花粉研究により推定されている同時期の日本の植生と整合的であることを確認した。
この発見から、海底堆積物には陸上の気候変動の情報をも保存されていることが示されたとし、過去の地球温暖化の調査を進めることにより、現在進行する温暖化を理解するための重要な科学データを提供できるとしている。
論文情報:【Geobiology】Eukaryotic diversity in late Pleistocene marine sediments around a shallow methane hydrate deposit in the Japan Sea