東京大学の中辻知教授らを中心とする研究グループは、理化学研究所と共同で、世界で初めてワイル粒子を磁性体(マンガン三スズMn3Sn)の内部で実験的に発見。従来の強磁性体や反強磁性体とは異なった、新しい磁性体「ワイル磁性体」を世界で初めて見いだした。
「ワイル粒子」とは質量ゼロの粒子で、その候補とされたニュートリノは1998年、質量の存在が確認。しかし、2015年に固体の非磁性物質(ヒ素化タンタル)中に非磁性ワイル粒子が発見された。一方、最初に存在が予測されていた磁気ワイル粒子は外部磁場で制御可能なため、デバイス応用に必要不可欠とされ世界中で熾烈な探索競争が展開されていた。
今回の研究で発見したワイル粒子は、従来の非磁性体で発見されたワイル粒子とは発現機構が全く異なり、物質の磁性により創出される「磁気ワイル粒子」だ。この発見はMn3Snが外部磁場による制御で質量ゼロの磁気ワイル粒子を自在に操作できる新しい磁性体「ワイル磁性体」であることを意味する。ワイル磁性体に小さな磁場を与えるだけで、磁気ワイル粒子が作り出す巨大な磁場(物質中の伝導電子が感じる仮想的な磁場)が制御可能になる。
このワイル磁性体では、新しい量子機能を持った特異な物質特性を室温で発現できる。磁場がなくても巨大な「ホール電圧」を発生させることや、固体内で磁場中と同方向に電流を誘起させることが可能だ。また、この物質に観測されていた巨大な磁気輸送現象や熱電効果に、磁気ワイル粒子の作る巨大な磁場が重要な役割を担っていることも判明した。
今後、ワイル粒子の量子力学的な特性を利用することで、新しい機能を持った革新的な次世代デバイスの開発の進展が期待される。
論文情報:【Nature Materials】Evidence for Magnetic Weyl Fermions in a Correlated Metal