筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構を中心とした研究グループは、睡眠覚醒や食欲を制御する脳内物質オレキシンが「恐怖を感じるレベル」を調節していることを発見した。
動物は恐怖を感じた時、無意識にそのときの環境や周囲にあった物、音、匂いなどをその恐怖と関連づけて記憶する。そして、後に同じ状況に陥ったり、同じ感覚を感じたりすると恐怖を覚え、行動や自律神経系に変化があらわれる。この現象は「汎化」とよばれ、心的外傷後ストレス障害(PTSD)などはその典型的な症状である。
恐怖や危険を感じる状況ではオレキシンニューロンが興奮することが知られているため、同グループはオレキシンに着目し、特定の神経細胞を任意のタイミングで操作できる遺伝子改変マウスを用いて研究を行った。その結果、オレキシンは脳幹の青斑核という部分に存在する神経細胞群に働きかけ、恐怖を感じるレベルを制御していることが分かった。
恐怖記憶は、脳の深部に存在する扁桃体に記憶されているが、オレキシンにより扁桃体の外側部分が刺激されることで、恐怖記憶がよみがえり(汎化)、恐怖の応答を強めることが明らかになった。また、これらの恐怖反応は、オレキシンの受容体への結合を妨げることにより減弱されることが分かった。
本成果は、睡眠覚醒制御や食欲に関与しているオレキシンの新たな機能を明らかにしたという点で画期的である。オレキシン受容体拮抗薬は既に不眠症の治療薬として実用化されているが、今回発見された新たな効用についてはさらなる検討が必要である。
論文情報:【Nature Communications】Orexin modulates behavioral fear expression through the locus coeruleus