東北大学の下川宏明教授らの研究グループは、低出力パルス波超音波がマウスのアルツハイマー型認知症モデルにおいて認知機能低下を抑制する可能性があることを見出し、2018年6月より、世界で初めて臨床の現場で探索的医師主導治験を開始する。
アルツハイマー型認知症は認知症の代表的な病態の一つであり、いくつかの症状改善薬が開発された現在もその根本的な解決策となる治療法が確立されていない。認知症に対する治療法の開発は、超高齢社会の進展に伴う認知症患者の急激な増加とともに、世界的に大きな課題となっている。そのような中、新世代の低侵襲治療とされる「LIPUS治療」が、認知症に対する新たな治療手段として研究が始まっている。
下川教授らの研究グループは、以前より虚血性心疾患に対するLIPUS治療の有効性と安全性を動物実験レベルで報告してきた。この低出力パルス波超音波を全脳に照射すると、進行性の認知機能低下が抑制される可能性があることを、マウスを用いた二つの認知症モデルから見出した。アルツハイマー型認知症の動物モデルでは、その二大病理の一つであるアミロイドβの蓄積を有意に減少させた。また、この治療法は物理刺激を用いた革新的なアプローチであり、薬物では通過しにくい血液脳関門の影響を全く受けることなく十分な治療効果を得ることができる。
今回の研究は、現在根治的な治療法のないアルツハイマー型認知症において、認知機能の低下を抑制しうる新たな治療方法を見出した重要な研究であり、2018年6月から世界で初めて実際に臨床の現場でその有効性と安全性を評価する探索的医師主導治験が始まる。