浜松医科大学、金沢大学、名古屋大学、福井大学の共同研究チームは、自閉スペクトラム症における対人コミュニケーションの障害に対する初の治療薬として期待されるオキシトシン経鼻スプレーの治療効果を、医師主導の臨床試験により世界で初めて検証し、その結果を発表した。
自閉スペクトラム症は、対人場面でのコミュニケーションの障害と、興味や関心が偏りやすく同じ行動を繰り返しやすいという常同行動と限定的興味を主な症状とし、100人に1人程度と頻度の高い発達障害であることが知られる。しかし、その有効な治療法は確立されておらず、平均以上の知能を有する方でも社会生活に支障をきたす原因となっている。
本臨床試験で用いられたオキシトシンは、脳から分泌されるホルモンで、分娩促進や乳汁分泌促進作用が広く知られている。一方、他者と信頼関係を築きやすくする効果が近年報告され、注目を集めているという。
今回の臨床試験では、対人場面でのコミュニケーションの障害に対するオキシトシン経鼻スプレーの効果について、前例を見ない医師主導の無作為割付多施設大規模試験を実施して検討した。その結果、面談場面での振る舞いから専門家が評価したオキシトシンの効果は、プラセボ効果(効果の出る成分を含まない偽薬を服薬した際の、服薬によって症状が良くなるという期待から生じる改善効果)を上回らなかったものの、オキシトシン血中濃度変化と相関するという結果を認めた。また、視線計測で評価した客観的な社会性や、常同行動と限定的興味は、オキシトシンの投与で改善していた。
今回の結果から、オキシトシンを医療に用いることを可能にする開発計画が進むことが期待されている。