ラウンジや屋上テラスなど快適性を増すアメニティが、オフィスビルの賃料や空室率にプラス効果をもたらすことを、不動産大手の三幸エステート、筑波大学システム情報系の堤盛人教授らの研究で分かった。研究グループは欧米と同様に日本のオフィス市場でも質を求める意識が高まってきたとみている。
三幸エステートによると、世界中でオフィスビルの『質への逃避 -Flight to quality-』が顕著になっている。ハイブリッドワークが浸透する中、従業者の出社を促すために企業がより質の高いオフィスビルに移転する傾向を指し、2019年に行われたCushman & Wakefieldの調査では、アメリカのアメニティが充実したビルは周辺サブマーケットの平均的な賃料に比べ18%のプレミアムがあることが示されている※。
※Cushman & Wakefield (2020) Do amenities still matter in a post-COVID-19 world? The Edge Magazine, Volume 7, pp 26-31.
日本においても、床面積を減らしつつアメニティの充実したビルに移転する事例が増えていることから、研究グループは日本のオフィス市場における『質への逃避』が個々のオフィスビルに与える影響の度合いを調査した。
研究グループはオフィスビル内のラウンジや屋上テラス、託児所、フィットネスなどのサービス施設をアメニティと定義し、東京都心5区で2015年第1四半期から2022年第4四半期までに取引されたワンフロア面積660平方メートル以上、延べ床面積9,900平方メートル以上の標準的な賃貸オフィスビル375棟を対象に、賃料や空室率に対するアメニティの効果を調べた。
その結果、アメニティがあるビルはそうでないビルに比べ、賃料が6.5%高く、空室率が0.8ポイント低いことが分かった。1年ごとに推定したところ、賃料は2019年を除いて4.5~7.6%のプラス効果が出ていた。研究グループは2019年の空室率が極端に低く、賃料が高騰していたため、アメニティの効果が表れなかったとみている。
空室率に対する影響は2019年まで、有意な効果が見られなかったが、コロナ禍に入った2020年からアメニティの効果が見られるようになり、2022年は2.3ポイント低くなっていた。コロナ禍で空室率が上昇する中、企業がアメニティを備えた物件を選んだとみられ、日本でも『質への逃避』が個々のオフィスビルの賃料と稼働率に影響を及ぼしていることが明らかになった。研究グループは今後、アメニティの有無で市場の二極化が進む可能性があるとしている。