スピンがらせん状に配列した「らせん磁性体」は、スピンのねじれ方を情報として活用した新たなスピントロニクス材料となることが期待されている。しかし、らせん磁性を示す物質は希有で、スピントロニクス材料として古くから研究されてきたペロブスカイト型遷移金属酸化物であっても、その報告例は限られていた。
今回、東京大学・大阪大学らの研究グループは、立方晶ペロブスカイト型構造を持つコバルト酸化物に着目。同じ構造でらせん磁性を持つ鉄酸化物が、鉄と酸素の結合長を引き伸ばすとスピン配列のねじれ方が大きく変化することが知られているため、同様にコバルトと酸素の結合長を引き伸ばして、新奇磁性相を探索することを目指した。
超高圧酸化処理により、らせん磁性に必要と考えられるコバルト-酸素間の強い結合を保ちながら、元素置換で結合長を引き延ばしたペロブスカイト型コバルト酸化物の大型単結晶を合成。得られた単結晶に対して磁化測定を行い、コバルト-酸素間の結合長をわずか1%程度広げるだけで、強磁性相が新たな磁性相へと変化することを見出した。さらに、実験と理論計算から、この新たな磁性相がらせん磁性相であることを確認した。
これにより、立方晶ペロブスカイトのようにシンプルな結晶構造を持つ酸化物であっても、遷移金属と酸素の間の強い結合を制御すればらせん磁性が生じうることが、世界で初めて実証された。
本成果は、酸化物らせん磁性体の新規開拓につながる新たな指針を与えるものであると同時に、結晶格子の増大による強磁性-らせん磁性転移という磁性スイッチングは、新たな圧力センサーや磁気アクチュエーターへの応用につながることが期待されている。