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2024年度入試で国立大学の入学定員が440人増える - 大学ジャーナルオンライン

文部科学省が8月31日に公表した「令和6年度 国立大学の入学定員(予定)について」を見ると来年度、国立大学の入学定員が440人も増えることになっています。地域、学部系統によっては私立大学の学生募集に影響します。文科省の資料では理工系分野での定員増加が目立ちます。増加人数分の約76%が理工学系統ですので、中堅私立大学の理工系学部は、例年よりも合格者の入学手続き率が低下することが考えられます。

 

国立大学の新設学部の入学定員合計は241人

ここ数年、国立大学で新設学部の設置が続いていますが、2024年度入試でも4学部が新設予定となっています<表1>。入学定員の合計241人となっていますが、このうち筑波大学の学際サイエンス・デザイン専門学群は、もとの資料では注釈が付いており、「外国に設ける学部」とあります。筑波大学のホームページで「学際サイエンス・デザイン専門学群」を検索すると、マレーシア海外分校の記事が出て、2024年9月開校の見通しと出てきますので、これが新しい学群だと思われます。筑波大学は設置が海外のため、この40人を除いた201人が新学部の国内学生募集の入学定員になります。

実はこれら新学部の入学定員は純増ではありません。宇都宮大学、千葉大学、お茶の水女子大学ともに他の学部の入学定員を減らして、新学部の定員を捻出しています。その点では、私立大学の学生募集にとって直接の脅威ではありません。ただ、入学定員が減少した学部は、その分だけ合格者数も減りますので、普通に考えれば、入試の予想難易度が上がります。

それによって、受験生が従来とは異なる動きをすれば、私立大学の入学手続き率に変化を及ぼしますので、影響が皆無とは言えないでしょう。入学定員を減らした学部で減少数が大きく入試の難易度に影響しそうな大学・学部は、宇都宮大学工学部(315人→290人、-25人)、千葉大学工学部(620人→540人、-80人)が考えられます。両大学の新学部は、宇都宮大学(データサイエンス経営学部)、千葉大学(情報・データサイエンス学部)と入学定員が減少した工学系に近い分野ですので、影響する範囲は限られるかも知れません。

入学定員増を行う国立大学の増員数は469人

新学部は入学定員全体で見ればプラスマイナス0ですが、入学定員が純増する大学もあります。<表2>の入学定員が増加する国立大学の増員数を見ると、合計で469人とあります。

ただ、これらの全てが純増ではなく、このうち、宮崎大学は農学部の入学定員を20人減らしていますので、大学としての入学定員はプラスマイナス0です。また、茨城大学は入学定員が34人増えているように見えますが、実はこれらの入学定員を使って、新しい教育プログラムを設置しますので、実際には入学定員は増えません。

これらの入学定員増は工学部機械システム工学科の定員を40人減員した人数分が当てられています。それで一旦、これらの学科の入学定員を増やし、それをまた減員してその分で新しい教育プログラムを設置しています。随分と遠回しに定員の割り振りを行っていますが、これによって地域未来共創学環(入学定員40人)が設置されます。茨城大学のホームページを見ると、「地域未来共創学環では、『ビジネスとデータサイエンスを中心とした分野・文理横断の学びから、地域課題の解決や、新たな価値創出に挑戦する実践的な人材』を養成します」とありますので、まさに入学定員を拠出した人文社会科学部、工学部、農学部が連係したカリキュラムになると思われます。

閑話休題。<表2>で茨城大学、宮崎大学を除くと、あとは全て純増の入学定員増となります。そして、一目瞭然ですが、理工系学部が多いことが分かります。それも有力大学が目立ちます。北海道大学、東北大学、東京工業大学などで40~50人の定員増は他大学への影響がかなり大きいと思われます。金沢大学の40人、大分大学の40人も同じ地域、あるいは近隣地域の私立大学には影響大です。いや、国公立大学でも影響があります。

2024年度入試は、翌年の2025年度入試(新課程入試初年度)を見据えて、受験生が安全志向になると言われています。ただ、理工学系に限れば、むしろ難関国立大学やその定員増=合格者増の影響で、合格者数を増やすことが予想される難関私立大学も、チャレンジ志向で受験した方が好結果を得られそうです。

理工系の入学定員増は文科省の支援事業の影響も

理工系の入学定員がこれだけ増えるのには、文科省の事業が影響しています。それは「大学・高専機能強化支援事業」です。大学業界で「3000億の補助金」と言われている、理工系、デジタル分野支援の事業です。今回の理工系の入学定員増は、この支援事業に採択されたことで行われていますので、政策誘導の側面が強いと言えます。事業に採択されたこの他の大学は、今後、新しい学部の設置なども行いますので、これからも新学部の設置や入学定員の増加は続いていくと見込まれます(採択大学や新学部などは文部科学省のホームページで公開されています)。

こうした動きは受験生にとっては、選択肢が増えるため良いことですが、中堅私立大学にとっては、人口減と相俟って学生募集が年々厳しくなることを意味しています。この人口減については、様々な試算がなされており、特にリクルート進学総研が文科省の学校基本調査の各学年を丹念に合計してホームページで公表しているデータは、都道府県単位、男女別の数字も確認でき、最も参考になります。余談ですが、かつては18歳人口の予測は、学校基本調査で高校生数と中学生数、小学生数を各学年別に単純に見ていけば良かったのですが、現在は、中等教育学校、義務教育学校と学校種が増えているため、計算の労力が印象としては倍以上です。

さて、リクルート進学総研のデータは、学校基本調査を基にしているため、2034年までの予測となっています。これを見ると首都圏は、緩やかに18歳人口が減少するものの、一定の規模が維持されているように見えます。グラフにしてみると、右肩下がりではありますが、傾きは緩やかですので、首都圏の大学関係者は何となく安心してしまうかも知れません。

ところが、2035年以降を考えるために、学校基本調査ではなく、厚生労働省の人口動態調査で都道府県別の出生数を使って、グラフを書くと傾き方が異なります。東京都も含めて、18歳人口の落ち込み方がこれまでより大きくなります。もちろん、転入、転出などもあるため、各都道府県の出生数が当該県等の18歳人口にそのまま移行する訳ではありませんが、全ての大学にとって現在の想定以上に厳しい環境になることは間違いなさそうです。

【文部科学省】成長分野をけん引する大学・高専の機能強化に向けた基金による継続的支援
https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/kinoukyouka/index.html

【リクルート進学総研】18歳人口・進学率・残留率の推移
https://souken.shingakunet.com/research/18/

神戸 悟(教育ジャーナリスト)

教育ジャーナリスト/大学入試ライター・リサーチャー
1985年、河合塾入職後、20年以上にわたり、大学入試情報の収集・発信業務に従事、月刊誌「Guideline」の編集も担当。
2007年に河合塾を退職後、都内大学で合否判定や入試制度設計などの入試業務に従事し、学生募集広報業務も担当。
2015年に大学を退職後、朝日新聞出版「大学ランキング」、河合塾「Guideline」などでライター、エディターを務め、日本経済新聞、毎日新聞系の媒体などにも寄稿。その後、国立研究開発法人を経て、2016年より大学の様々な課題を支援するコンサルティングを行っている。KEIアドバンス(河合塾グループ)で入試データを活用したシミュレーションや市場動向調査等を行うほか、将来構想・中期計画策定、新学部設置、入試制度設計の支援なども行なっている。
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