静岡大学の森田健講師は、日常的にありふれた現象であるバタフライ効果において、ブラックホールで起こると考えられている量子論的な発熱現象が同様に起こりうるという理論予測を立てることに成功した。
ホーキングは1974年に、ブラックホールが量子論の効果により熱を持つことを予言した。この温度はホーキング温度と呼ばれ、量子論の効果の大きさを表すプランク定数に比例する式で表されている。温度がプランク定数に比例するということは、すなわち発熱現象が完全に量子力学的な効果に起因するという意味だ。
ブラックホールにおける熱的性質の起源は、現在も多くの謎に包まれており、これを解明することは現代物理学最大の課題の1つに挙げられている。量子論的な発熱現象についても様々な研究が行われ、ブラックホールの他にも、超音速流体や相対論的加速運動などにおいても起こることが解明されたが、かなり限られた状況で起こる特殊な現象であることに変わりはない。
一方、バタフライ効果は、わずかな変化でも時間が経つと非常に大きな影響を与える現象のことで、例えばコーヒーにミルクを注いだときのミルクの拡散や、山の上を転がるボールの運動などのように、私たちの身の回りで日常的に起こっている。
本研究は、このバタフライ効果が起こる際に、ホーキング温度と同様にプランク定数に比例する温度を持った発熱現象が起こりうることを予言するものだ。バタフライ効果における量子論的な発熱現象で発生する温度は非常に低く、これまで観測されることはなかったため、今後は実験的に確証を得ることが課題となるが、本研究から得られたバタフライ効果とブラックホールの関係は、ブラックホールの量子論的な性質の解明に役立つのではないかと期待されている。
論文情報:【Physical Review Letters】Thermal emission from semiclassical dynamical systems