神戸大学バイオシグナル総合研究センターの菅澤薫教授、東京大学定量生命科学研究所の胡桃坂仁志教授、大阪大学大学院の岩井成憲教授らは、紫外線により発生したDNA損傷が効率良く検出され修復されるしくみを明らかにした。
1日のうち1細胞あたり数万回以上も発生するとされるゲノムDNAの損傷は、修復が間に合わなくなるとDNAの複製・転写の妨害、細胞死や染色体の不安定化を引き起こし、さらには細胞ががん化する恐れもある。
DNA損傷を引き起こす要因の一つである紫外線によってDNAが損傷を受けると、UV-DDBと呼ばれるタンパク質複合体が損傷を見つけて結合することで修復が開始される。しかし、DNAはヒストンタンパク質の周囲に巻きついて「ヌクレオソーム」と呼ばれる構造を形成しているため、DNA損傷がヌクレオソームの外側に露出しているか、内側に隠れているかによって、UV-DDBの損傷へのアクセスが影響を受けることが予想される。
UV-DDBがどのようにして効率良く損傷を検出するのか調べるため、特定の位置に損傷を含むDNAとヒストンタンパク質によってヌクレオソームを形成させ、これにUV-DDBを結合させた複合体の立体構造を解析した。その結果、損傷がヌクレオソームの外側に露出している場合には、元のヌクレオソームの構造をほとんど変えずにUV-DDBが損傷に結合していた一方、損傷がヌクレオソームの内側に隠れている場合には、驚くべきことにヒストンタンパク質の表面に沿ってDNA二重らせんが数塩基分「滑る」ことで、損傷が当初よりも外側に移動してUV-DDBが結合していることがわかった。
UV-DDBが修復反応の開始を可能にするためにヌクレオソームの構造変化を引き起こすメカニズムが明らかになったことで、その人為的な制御が可能になれば、紫外線に対する防護や皮膚がんの予防につながる創薬などに応用できる可能性がある。
論文情報:【Nature】DNA damage detection in nucleosomes involves DNA register shifting