東京都医学総合研究所の夏堀晃世主席研究員と本多真副参事研究員は、東北大学、慶應義塾大学と共同で、生きたマウスの脳内エネルギー計測に成功し、動物の睡眠―覚醒に伴い、神経の細胞内エネルギーが大脳皮質の全域で変動していることを発見した。
生きた動物の脳内では、細胞のあらゆる活動に必要なエネルギーの枯渇を防ぐため、エネルギーの恒常性を維持する仕組みが働いているとされる。この仕組みにより、生きた動物の脳内で、細胞のエネルギーレベルは常に一定に保たれていると予想されてきたが、これを証明した研究はなかった。
今回研究グループは、細胞のエネルギーとして利用される分子であるATP(アデノシン三リン酸)の神経細胞内濃度を、生きたマウスの脳からリアルタイムで計測した。その結果、マウスの大脳皮質の興奮性神経の細胞内ATP濃度はマウスの覚醒時に高く、覚醒からノンレム睡眠に入ると低下し、さらにレム睡眠に入ると大きく低下した。一方、細胞へのエネルギー供給を表す脳血流量は、マウスの覚醒時と比較してノンレム睡眠中にわずかに増加し、レム睡眠中に大きく増加した。
さらに、細胞のエネルギー需要が増加する覚醒時に神経細胞内ATPが大脳皮質全域で増加。動物の睡眠から覚醒に合わせて脳の広域で神経細胞内ATPを一気に増加させる、全脳レベルのエネルギー調節機構が存在する可能性が予想された。
今回の研究は、生きた動物の脳内で「細胞のエネルギーレベルが常に一定に保たれる」という従来の予想を覆し、大脳皮質の神経細胞内エネルギーは動物の睡眠覚醒に合わせて変動することを明らかにした。今後、細胞内エネルギー消費活動や脳内システムの解明が期待される。