筑波大学医学医療系の藤田諒助教らの研究グループは、骨格筋幹細胞が自己を複製し、増幅する仕組みの一端を明らかにした。骨格筋幹細胞が長期的に増幅する方法を開発するための鍵となる研究結果で、サルコペニアや遺伝性筋疾患などの治療に役立つ可能性がある。
筋肉(骨格筋)は非常に高い再生能力を持っており、その中心的役割は骨格筋組織内の骨格筋幹細胞が担っている。骨格筋はまた、全身のエネルギー代謝を制御する組織としても大切な働きをする。しかし、加齢や病気により骨格筋幹細胞の能力は低下し、筋肉量や筋肉の質の低下、そしてサルコペニア(加齢性筋肉減弱症)などを引き起こすことがある。骨格筋の正常維持には、骨格筋幹細胞の増幅や性質を維持するメカニズムの解明が必要となる。
研究グループは、タンパク質の翻訳に関わる分子(eIF2α)のリン酸化が自己複製細胞で強く誘導されていることをヒントに、骨格筋幹細胞の自己複製を制御する新たな分子メカニズムを同定した。この分子のリン酸化は一般的にタンパク質翻訳を抑制することが知られていたが、解析により、逆にタンパク質翻訳が亢進される分子(TACC3)を同定した。
これにより、骨格筋幹細胞はeIF2αのリン酸化を介して細胞全体のタンパク質翻訳を抑制しながら、TACC3を選択的に翻訳誘導することで、骨格筋幹細胞の自己複製と増幅を制御する可能性が示唆された。
このeIF2αのユニークなタンパク質翻訳メカニズムの解明とTACC3の同定により、従来まで難しいとされていた長期的な骨格筋幹細胞の生体外培養が可能となり、加齢による筋肉量や筋力の減少(サルコペニア)や筋ジストロフィー症などの治療法開発に貢献することが期待される。
論文情報:【Development】Satellite cell expansion is mediated by P-eIF2a dependent Tacc3 translation