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大学の学びを活かし、リブランディングに挑戦 - 大学ジャーナルオンライン

志は自然と人が調和した、美しい世界を伝え残す

去る10月6日(木)、1926年創業の京都の甘納豆専門店・有限会社斗六屋(所在地:京都市中京区、代表取締役近藤健史)から、「自然の恵みに手を添える」をコンセプトにした、種と糖だけで作る≪タイムレス≫な菓子ブランド「SHUKA(しゅか)」がデビューしました。

「砂糖漬け」と呼ばれる甘納豆作りで用いる古来の食品保存技術を活かしつつ、素材には従来の小豆や斗六豆の他、カカオやピスタチオなど、海外でも愛される種を採用。デビューに先駆け実施したクラウドファンディングでは開始4日で目標金額の150万円を達成するなど早くも注目を集めています。プロデュースした近藤健史さんに開発のストーリーをお聞きしました。

 

SHUKA誕生への道のり

 甘納豆は、まだお菓子が貴重な江戸時代、職人がお菓子を手軽なものにしたいと、当時原料として見向きもされなかったささげ豆に目をつけて開発した和菓子です。保存技術の一つである砂糖漬けで、豆を使う点で日本独自の食文化です。

 大学院卒業後、家業を継ぐことを決意してから、私は甘納豆を残したい一心で、さまざまな活動をしてきました。その中で、甘納豆の抱える課題と価値、強みと弱みの両面に気づきました。課題は、お年寄りのお菓子、古くさい、甘すぎる、甘い納豆などのネガティブなイメージが付きまとうことです(ちなみに甘納豆という名前はいわゆる「納豆(糸引き)」に由来するのではないので、発酵食品でもありません)。

 一方で豆と砂糖だけでとてもシンプルで、植物性で、アレルギーや宗教、菜食主義などさまざまな食の制限がある人も、安心して食べられるのが強みです。特に私が大切にしたいと思ったことは、素材の色や形を丸ごと残すといった、生き物、自然をリスペクトする姿勢です。

 甘納豆を、そして日本の文化を世界に発信したいとの想いから、2018年にはイタリアのスローフード世界大会に出品しました。結果は、予想していたことでもありましたが芳しくありませんでした。ここで考えさせられたのが、世界中で愛される菓子とは何か?ということでした。答えの一つは現地で見たチョコレートにありました。これをヒントに、2020年、カカオ豆の甘納豆を発表しました。

 しかし、多少は評価されたものの甘納豆のこれまでのイメージを変えるまでには至りませんでした。やはりプロダクトより上位の、ブランドを作る必要があるのではないか。そう思った私は、いっそのこと世界に通じるブランドを創りたいと、ブランディングで有名な中川政七商店の中川政七会長に会いに行きました。お聞きしたのが「甘納豆は根源的に種と糖」という一言。ここから、それを端的に表現した種の菓子ブランド「SHUKA(種菓)」が生まれました。

 

SHUKAは、種と糖だけでできた、古くて新しい、素材の個性をまるごと味わえるお菓子

 

伝統の継承と新たな挑戦

 甘納豆を残したい。廃業が続く甘納豆業界の中で、私は、「SHUKA」に甘納豆の古くて新しい形を託したいと考えました。私たち後継者の仕事は、元々あったものを丁寧に受け継ぎつつ、時代に合わせて変えていくこと。残す部分と変える部分とを見極め、創意工夫を怠らないことが、家業の存続に大きく関わっています。

 ここまでのところ、自社の強みである甘納豆作りの技術は継承しつつ、年齢や国籍を問わずより多くの人に食べていただけるように、コンセプトを大きく変えたことから将来の展望が開けてきました。

 

同世代の若者に憧れを

 将来的には、まず季節商品の開発に取り組みます。例えば果物は、西洋では砂糖漬けにするのが一般的ですし、本来”種”を運ぶためのものなので、SHUKAらしいと思います。種とさまざまな飲み物とをペアリングして楽しんでもらえるようにもしたいです。来年からは、種を使った洋菓子にも挑戦し、2025年の大阪万博で世界中の方々をSHUKAでおもてなしすることを目指しています。

 また、種に関わる新たな製品の開発や、海外を見据えたショップを展開し、世界中の人たちに甘納豆を食べてほしいと思っています。
少し抽象的な言い方をすると、甘納豆づくりを通じて、人と人、人と自然が調和した豊かな社会づくりに貢献したいのです。とても大それた望みですが、それを目指す中で、特に同年代の若い世代が伝統産業への「あこがれ」を持ってくれれば、これほど嬉しいことはありません。

 

“種の気持ちになれる”コンセプトショップ

 

高校生・大学生へのメッセージ

 これまで自分がしてきたことで、無駄なことはなかったと思っています。元々家業を継ぐ気はなく、研究者になりたいと微生物の研究に没頭していました。では経営者になった今の心境はどうかというと、ただ対象が変わっただけという感覚でしかありません。

 家業を継いだ当初私は、実務経験の不足を、大学で学んだ科学実験の手法で補おうと考え、先代の仕事を細部にわたってデータ化し続けました。その甲斐もあり、短い期間で先代の技を再現できるようになりつつあります。将来のことが見えなくても、その時その時に興味のあることに一生懸命打ち込む。そうすれば、目指すものにすぐにはつながらなかったとしても、いずれはそれが活きてきます。

 また、その時にしかできないことをやることも大事だと思います。私は大学院卒業後は、2年間老舗菓子店で働きました。家業を手伝った経験がなくすぐに働いても役に立たないだろうと思ったからです。同時に、家業を一度やり始めた以上、一生やり続けることになるとも思ったからです。ふりかえれば、あの時の2年間の経験は、今に大いに活きていると感じています。

 

 

斗六屋

4代目 近藤 健史さん

1990年京都生まれ。2012-2014年、京都大学大学院で微生物を研究。2014-2016年、卒業後、関西の老舗菓子店(たねや・クラブハリエ)勤務。2016年、有限会社斗六屋に入社(家業)。2018年、イタリアで開催されたスローフードの世界大会“terramadresalonedelgusto”に甘納豆を初出品。世界に甘納豆を通して日本文化を伝える活動も行う。2020年、代表取締役に就任。京都のクラフトチョコレートベンチャー「DariK」とコラボし、世界的にも珍しいカカオ豆を使った進化系甘納豆“加加阿甘納豆”を発表。2021年、中川政七商店とリブランディングに着手。2022年、タイムレスなお菓子ブランド「SHUKA」を立ち上げる。趣味はイタリア語。

 

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大学ジャーナルオンライン編集部

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