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熊本大学におけるデジタル人材の育成を基軸とした文理融合組織「情報融合学環」の創設構想* - 大学ジャーナルオンライン

熊本大学は2024年4月、数理・データサイエンス(DS)の素養を身につけ、デジタルトランスフォーメーション(DX)推進に対応することのできる人材の育成を目的とした学部等連係課程「情報融合学環」を新設する予定だ。今回は、新組織の創設に携わる宇佐川毅教育・学生支援担当(副学長)理事、城本啓介大学院先端科学研究部(工)教授にお話をうかがった。
*設置計画は予定であり、変更が生じる可能性があります。

 

大学創立以来、75年ぶりに学部相当の組織を新設

 宇佐川理事によると、同大学において学部に相当する教育組織(学士課程)が設置されるのは、1979年の法文学部の法学部と文学部への改組を除くと1949年の大学創立以来はじめてのこと。学部相当組織創設構想に至った背景としては、小川久雄学長からの指示があり、令和3年夏から文部科学省「地域活性化人材育成事業~SPARC~」への申請に向けた検討を開始したことが挙げられる。本事業は、熊本大学が事業責任大学となり、熊本県立大学を事業の参加校、東海大学を事業の協力校として申請された「くまもとの未来を拓くグローバルDX人材育成プロジェクト―地域社会と国公私3大学の連携による”くまもと型文理融合DX教育”の構築を目指して―」として、令和4年8月に採択された。

 そのうえで「情報融合学環」を新設するトリガーとなったのが、世界的半導体メーカー台湾積体電路製造(TSMC)の熊本県内への進出だ。同県には1980年代から半導体産業が広く根づいており、熊本大学でも毎年、卒業生の50名程度が半導体関連企業に就職しているが、ファウンドリ最大手であるTSMCの新工場設立を受け、DXを推進する人材のさらなる育成が急務となったことが、新しい学部相当組織の誕生を加速化させる要因となった。

 

「文系」「理系」、「学部」「学科」の枠組みを超えて知識力と発想力を養う

 データサイエンスを基盤とした学びを展開する情報融合学環は定員60人。城本教授によれば、その特長は、学生たちは「文系」「理系」という学問的区分にとらわれず学び、教員は従来の「学部」「学科」を超えて教育に携わっていくことで、領域横断的な知識力と発想力を養っていく「文理融合型」を導入している点であり、その結果として「学環」という組織が誕生するに至ったそうだ。学内の既存の工学部、法学部、医学部からも科目提供を受ける予定で、これら複数の学部との緊密な連携・協力により、学部の枠を超えた横断的な学位プログラムを提供する。

 また、情報融合学環には「DS(データサイエンス)総合」「DS半導体」の2コースを設置。1年次にデータサイエンスの基礎となる情報収集方法や統計学、数学などを学び、2年次より希望するコースに配属される。

 各コースの概要としては、40名規模を想定しているDS総合コースの場合、人工知能や情報処理に関する科目を学修するとともに、経済、公共政策や学習教育手法、農学などについて、SPARC事業で協働する熊本県立大学や東海大学からの科目提供を受けながら、文理横断的な知識を習得していく。一方、20名規模を想定しているDS半導体コースの場合、データ分析に関する科目に加え、半導体や電気回路に関する科目を学修し、半導体デバイスを製造する各工程の品質管理や効率化等に関連する知識を習得していく。特にDS半導体コースに関しては、半導体関連の生産基地が域内に数多く存在している地の利を生かして、地元企業や自治体と連携しながら、より実践的なPBL演習(問題解決型学習)が展開されていく予定だ。

 

データサイエンスの知識を通じて世の中に貢献できる人材を育成

 さらに城本教授によると、情報融合学環では文理融合の一環として、入学者選抜に文系型・理系型の選択制を導入。大学入学共通テストについては、国語・数学・外国語に加え、文系型では社会2科目と理科1科目、または社会1科目と理科2科目、理系型では理科2科目と社会1科目での受験が可能だ。

個別学力検査については外国語と数学の2科目で実施されるが、数学の出題範囲に数学Ⅲが含まれるか否かを選択可能で、文系型の場合は外国語の配点が数学よりも大きく、理系型ではその逆の配点となっている。さらに学校推薦型選抜Ⅱには、理系分野における男女比率のアンバランスを是正し、女性研究者・技術者等を育成していくことを目的に「女子枠」を導入。入学後も文系出身の学生には、数学や理科に関連するリメディア教育的な科目を1年次に設置することで、知識レベルの向上をサポートしていく。

 そして、情報融合学環では最終的にこれらの教育プログラムのもと、データサイエンスの知識を通じて世の中に寄与していく人材の育成が目指されている。現在、想定されている将来像としては、金融機関、情報通信業(IT企業)、流通・サービス分野、国や地方自治体等での活躍に加え、特にDS半導体コースでは、半導体関連企業をはじめとする製造業の生産システムについて、データサイエンスを駆使して全体を俯瞰し、その品質を的確に管理していくエンジニア等が挙げられる。両コースには中学・高校の教職課程を設ける予定であることから、数学や情報の教員を育成していくことも想定されている。

 

 加えて情報融合学環では、全体の6~7割が大学院へ進学することが想定されており、同大の大学院自然科学教育部だけでなく、大学院社会文化科学教育部並びに生命科学系の大学院への進学も可能とする教育プログラムを展開。修士号や博士号を取得し、より高度な知識を身につけたうえで、データサイエンティストとして企業や行政など、幅広い分野で活躍することが期待されている。

 

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