令和4年度COC+R全国シンポジウムでは、2つのテーマによるパネルディスカッションが開催されました。その1として、『企業と学生の「共創の学び」のポイント』について、内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局企画官笹尾一洋氏、(株)NDK代表取締役社長の久米智行氏がゲスト登壇。岡山県立大学と徳島大学から「共創の学び」の具体的な実践事例をご紹介いただきながら、そのポイントについて議論が展開されました。
(ファシリテーター:信州大学 末冨雅之特任教授)
「現場の課題」解決のための実践演習──岡山県立大学
まずは、岡山県立大学末岡浩治教授による「吉備の杜」創造戦略プロジェクト。その中でも「協働実践型PBL演習プログラム」について発表しました。これは、企業が直面している現場の課題を解決するため、企業の若手社員と学生・院生がチームを構成し、協働した実践型の演習を行うもの。受け入れ先からテーマを募集し、取り組むプロジェクトを決定。学生・院生は決められた期間、企業に通います。
同大学の学部構成に合わせ、令和4年度は食栄養健康分野で18、もの作り分野で19、木材建築デザイン分野で9のテーマが設定されました。いずれも企業にお願いして、重要度の高い内容を出していただいているとのことです。
次に、デザイン学研究科院生と建機用アタッチメントメーカーとの共創の事例を紹介。ICTやもの作りの分野からテーマを出してもらい、学生が選んで取り組んだものです。具体的には、製品に付ける銘板作成用Webアプリケーションの開発で、専門のデザインアプリを使わなくてもWeb上のフォームで簡単に操作し完成できるというもの。じっくりと打ち合わし、仕様決定、デザイン、コーディングなど一連の流れを経て完成しました。
参加した大学院生は、アプリ開発は初めてでしたが、「自分で聞いたり調べたりすることで問題解決と突破力がついた」と、やってみたかった仕事に携わることができたとの学びを得ました。また、企業側の担当者は、学生と一緒に学ぶことでこういったスキルが身に付いたという意見を寄せました。学生と企業人が近い距離感で20日間にわたって1対1で取り組んだことで、互いの生の声を聞き、いろいろな学びを得ることができたと結びました。
共創教育と実践型インターンシップの学び──徳島大学
次に、徳島大学の川崎修良教授の発表。同大学では、共創教育についての趣旨である「記号と学生の関係づくり」「企業課題実践型コラボ型インターンシップ」に沿って、学年に応じた学びの環境(カリキュラム)を整えています。そして新たに就業体験型インターンシップ(3・4年生)、提案型インターンシップ(大学院生)という2種類のインターンシップを展開。前者は令和4年度に導入され、夏休み期間中5日間程度の短期型インターンシップに参加しました。後者は令和5年度からの導入予定で、履修生が自ら企業と交渉し、プロジェクト型のインターンシップを設計して遂行するものです。
続いてメインの実践型インターンシップについての説明に。企業からのテーマを受けてプロジェクトを設計し、半年の間社員もパートナーとして一緒に取り組みます。
そして、4期続けて協力している(株)NDKの久米智行社長が、実践型インターンシップで現役学生と長期にわたって活動することで、考え方や価値観をリアルに知ることができる。これが最大の魅力だと語りました。久米社長自身もインターン生と仲よくなり、友人付き合いを続けているとのこと。これもメリットのひとつです。
再度川崎教授がマイクを受け、以前実践型インターンシップを機に入社した会社で、今は受け入れ側として活躍している事例を紹介。行動の幅が広がり、さまざまな人との出会いが得られ有意義だったといいます。
高年次教養教育プログラム──岡山県立大学
岡山県立大学からもうひとつ、社会人のリスキリングと学生を結び付ける取組について発表がありました。それは高年次の教養教育プログラムで、「大学院生にもっと教養を付けてほしい」という県内企業からの声に応えたもので、令和3年度から開始。令和4年度には前年の倍の83名が履修しました。これは学外者も履修可能で、令和4年は106名とこちらも倍増。オンデマンド形式で参加できるよう動画サイトも立ち上げました。そして大学院生と学外履修者の交流の場を提供して、「アディショナル・タイム」と銘打ち学内で議論も行いました。令和5年度には13科目に科目数を増やして、充実を図ると語りました。
また、大学院の科目である研究科クロスセクション科目は、PBL演習に行くまでに役立つよう設けていたものですが、学外からも受けたいという声に応えて提供。「時事と歴史を読む」「地域社会とビジネス」「地域資源学」といった科目が並びます。
学外者の中にはいくつかの企業の幹部もいて、とても積極的とのこと。経営者の方が学ぶ姿勢を持っていると、このような積極性も生まれるのでしょう。
同大学のプロジェクトによって県内の企業や団体と多様な関わりが生まれています。受け入れる場を提供する他、学外講師として、学外履修者として交流することで、「吉備の杜」が共創の学びの場となるよう取り組んでいます。
学生と自治体の共創 地域課題型インターンシップの取組──徳島大学
4例目の紹介は、令和4年度から始まった地域課題型インターンシップについて、再び徳島大学の川崎教授が発表しました。企業ではなく自治体等と地域課題に取り組むものです。観光としての釣り、スポーツツーリズムなどのプロジェクトを実施し、学生のパートナーには地域おこし協力隊の皆さんが当たっています。徳島に魅力を感じて移住を考えている社会人で、徳島では身に付けにくいスキルを持っている方も多く、地域課題に一緒に取り組むにはうってつけです。
これを持続的な取組にしていくためにはどうやっていくのがいいかを、今も話し合っているとのこと。それ自体がこのプログラムの大きな成果です。関係を続けることをこれからの課題としてマネジメントしていきたいということでした。
プロフェッショナル人材事業、先導的人材マッチング事業──内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局
最後は、内閣官房の笹尾一洋氏が人材マッチングに関する制作について発表しました。所属部署は各省庁からの出向者で構成されていて、名前が長すぎるので「デジデン」という愛称で呼んでいることも教えてくれました。目的は、デジタル技術を使って地方創生を進めていくこと。都市部から地域への還流促進を実演する上の重点政策として、ここでは地域企業への人材マッチング支援を採り上げました。この中には、46道府県が行うプロフェッショナル人材事業と、地域金融機関等が行う先導的人材マッチング事業の2本柱があります。
プロフェッショナル人材事業は、道府県の担当者が企業を訪問して経営課題の整備を手伝うもの。外から人材を採る場合には、民間の人材ビジネス事業者とタッグを組んで行います。もうひとつの先導的人材マッチング事業は、民間企業を早く育てるため地域の金融機関やベンチャーキャピタル等が人材紹介会社と組み、企業やベンチャーに成功報酬型の補助金を出しています。
そして兵庫県での実例を紹介。中小企業に副業人材をマッチングするため、まずは大企業の人事部との接点を活かしてミドルシニア世代の人たちを伴走人にして研修を実施。兵庫のプロフェッショナル人材戦略拠点、さらに兵庫県立大学も加わって、支援金融機関のコーディネーターを育てる事業を行っています。中小企業の問題点であるコミュニケーション不足を補うため、こうやって外からの助力で寄り添いながら活力を生んでいくプログラムです。
大学は、地域において様々な人が交わる場を提供する「サードプレイス」
5つの事例発表の後はラップアップと共にディスカッションの時間を設けました。学生と社会人という普段交わりの少ない人たちを交わらせるのが共創のポイント。テーマよっては工業系の企業でも理系以外のインターン生を受け入れられる。予想外の学科生が加わると思った以上の成果が上がる。大学は「サードプレイス」のようにいろいろな人たちが交われる場となる。大学は教育研究機関としての社会貢献を議論すべき。学生が地域社会へ出て行くとき、大学で体験したさまざまな交わりを「よかった」と認識することが大切──それらの声を聞き、パネルディスカッション1は終了しました。
※シンポジウムの動画は、COC+R会員の皆様に公開しております。
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