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今後は私立大学の新設が実質的に困難に?設置申請書類の一部が変更される - 大学ジャーナルオンライン

2025年度以降に私立大学を新設する際の申請書類が一部変更されました。今年の9月に手引書が公表される予定ですが、現段階で公表されている「学生の確保の見通し等を記載した書類」についての資料を見ると文部科学省の私立大学新設に対する厳しい姿勢が読み取れます。今後は私立大学の新設が実質的には難しいのではないか、とも受け取れる厳格な新基準について読み解きます。

 

 

現在の基準でも以前よりは厳格さが求められている

 私立大学を新設する場合には、当然ながら厳格な審査があります。文部科学省に申請書類を提出した後、審査を経て文部科学大臣が認可をするのですが、実際に審査を行うのは、大学設置・学校法人審議会です。その審査のためには多くの書類とそれを裏付ける資料が必要となります。審査に必要な書類について、詳しくは以下の文部科学省のHPで説明されていますが、その提出書類の中で今回、一部が変更されました。それは「学生確保の見通し等を記載した書類」です。2025年度以降に新設大学などを開設する際に適用されることになっていますが、現在の内容よりもかなり厳格さが求められるようになっています。

 この「学生確保の見通し等を記載した書類」は文字通り、新設大学や新設学部が入学定員を満たすことができることを審査側に説明する書類です。当然ながら、入学定員を充足できない計画の場合は認可されませんので、大学を設置する申請者側は、学生募集のための施策や受験生の動向などを書類上で説明します。そこで説明が求められる項目は、これまでも少しずつ厳格になってきていました。そのため、かつてに比べれば、現在の手引書で示されている、言わば基準のハードルは上がっています。それをさらに厳格にするのが今回の変更です。

 現在公表されている資料を一読したところ、行間からかなり強い意思(というより刺々しさ)を感じるのは少し穿った見方かも知れませんが、その背景には開設初年度から定員割れする新設私立大学が増えていることがあると言えます。書類上では定員を充足できると説明してあっても、実際には計画通りになっていない、つまり申請内容と実態が異なる状況が一部に生まれているのです。その責任はもちろん新設大学の設置者にありますが、認可した側の責任も問われかねませんし、何よりも新しい大学が存続しないとその大学に入学した学生が最も辛い立場に置かれてしまいます。そのため、今回の措置は学生の権利をいかに保護するかという考えが背景にあったものと推察されます。

大学の設置認可・届出制度(文部科学省HP)
https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/ninka/1368921.htm

 

求められる基準等がより明確、厳格になった

 現在、公表されている資料を見ると、新しい基準(規制?)が加わったというよりも、これまでも求められていた内容をより明確に、厳格に規定している印象です。

 例えば、これまでも、大学が新設される地域の地域的動向を踏まえるようにとされていましたが、それをかなり具体的に「学校基本調査のデータ(出身高校の所在地県別入学者数)及び自大学、他大学等の実績も用いて、どの都道府県からどの程度の大学進学者が見込まれるのか」を説明するよう求めています。さらに「提示するデータがない場合は、その理由を説明してください」と追記して逃げ道を断っています。

 また、競合する他大学については、これまでもそれなりに分析を求めていましたが、さらに詳しい分析の観点を指定しています。具体的には、「学校種の類似性」、「定員規模の類似性」、「学問分野の類似性」、「所在地の類似性」、「学力層の類似性」などです。マーケティングを知っている方であれば、これらは当たり前のことですが、これまではここまで具体的には示されていませんでした。特にこの中での「学力層の類似性」は、既存の大学が学部を新設する場合などは可能ですが、新設大学ではデータ等の入手は困難だと思われます。

 さらに、これらの競合校と比較して、新設される大学等は何が優れているのかを説明することが求められています。それに加えて、これらの競合校が定員割れしている場合には、そのような状況の中でなぜ新設される大学だけが定員を充足できるのか、その根拠を示すように求めています。

 このように現在よりもかなり厳しい内容になっていますが、考えてみれば当然と言えば当然かも知れません。むしろ、審査側が学生募集の考え方を親切に指南してくれていると受け取ることもできます。ただ、冒頭で「主観を最大限排除せよ」と記しているところなどは、かなり棘のある一言だと思いますが・・・

 

 

「学生確保に関するアンケート調査」の難易度が格段に上がる

 今回の変更点で最も難易度が上がったものが「学生確保に関するアンケート調査」だと思います。これまでも審査で問われる内容が年々厳しくはなっていましたが、今回はアンケートの標準書式をほぼ決めた形となっています。

 この「学生確保に関するアンケート調査」は、高校の先生方のご負担になっている調査ですが、例えば、入学定員100名の大学を新設する場合、高校生へのアンケート調査で、その新設大学に入学したいと回答した件数を100件以上集める必要があります。そのためには相当数の高校への依頼が必要となりますし、単に入学希望の回答を100件集めれば良いわけではありません。

 今回示されているアンケートの設問では、「卒業後の進路」から「受験希望」、「入学希望」まで5つの設問を設けることを求めています。これら5つの条件の全てに合致した件数が、入学定員以上になる必要があるとしていますが、この設問の中に超難関な条件が仕込まれています。それが「進学を希望する場合の大学等の設置者」を尋ねる設問です。複数選択可能とされていますが、選択肢は「国立」「公立」「私立」です。当然ながら首都圏などを除き、「私立」と回答する生徒はかなり限られると考えられます。

 さらに、新設される大学を受験したいかどうかを尋ねる「新設組織の受験希望の有無」の設問への回答選択肢は、「第1志望として受験する」、「第2志望として受験する」などが設定されていますが、集計の際は「第1志望として受験する」回答のみとするよう指示されています。このアンケートは、ほとんどの場合、高校2年生を対象に行われますが、高校2年の段階で、新設される私立大学を「第1志望として受験する」と回答する高校生はかなり限られると見られます。

 この「進学を希望する場合の大学等の設置者」と「新設組織の受験希望の有無」の設問だけを見ても、2025年度以降に、首都圏以外で新設を計画している私立大学には、認可のハードルが格段に上がったと言わざるをえない環境の変化と言えるでしょう。

 

 

神戸 悟(教育ジャーナリスト)

教育ジャーナリスト/大学入試ライター・リサーチャー
1985年、河合塾入職後、20年以上にわたり、大学入試情報の収集・発信業務に従事、月刊誌「Guideline」の編集も担当。
2007年に河合塾を退職後、都内大学で合否判定や入試制度設計などの入試業務に従事し、学生募集広報業務も担当。
2015年に大学を退職後、朝日新聞出版「大学ランキング」、河合塾「Guideline」などでライター、エディターを務め、日本経済新聞、毎日新聞系の媒体などにも寄稿。その後、国立研究開発法人を経て、2016年より大学の様々な課題を支援するコンサルティングを行っている。KEIアドバンス(河合塾グループ)で入試データを活用したシミュレーションや市場動向調査等を行うほか、将来構想・中期計画策定、新学部設置、入試制度設計の支援なども行なっている。
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