「Global Liberal Arts for Peace(平和のためのグローバル教養)」を掲げ、世界の平和に貢献する人材の育成を目指すグローバル・リベラルアーツ(GLA)学部。「自ら世界に出て行動することが重要」との考えから策定されたカリキュラムは、2回の海外留学をはじめ体験型のプログラムが充実している。また、キャリア支援では、社会企業家やキャリアコーチなどを迎え、セッションを通じて将来のキャリアを明確に描いていけるメンター制度も整う。朴シウォン学科長にカリキュラムの狙いと特色について伺った。
リベラルアーツは人間を知る学問
人を理解し、世界の平和に貢献する人材を目指す
「平和はだれもが重要だと考える一方、抽象的な概念のためその捉え方は人それぞれです。国やおかれた環境が異なればなおさら。そこで私たちは、まず深く人間を理解する必要があると考えます。リベラルアーツは人間を知る学問そのもの。GLA学部では、実際に世界に出て行動した体験を振り返りながら学びを内在化し、本当に使える知識を自分のものにしていくことを目指しています」
リベラルアーツとは、哲学や文学、法学、経済学など人文社会系の分野を包括的に扱う学問分野で、日本では「教養」として知られてきた。近年ではリベラルアーツという呼称も定着し、学べる大学・学部も数を増やすなど注目度が高まっている。
「本学では名称にグローバルを冠しているのが特色で、英語を学ぶのではなく、“英語で学ぶ”ことに重きを置いています。いま世界は、環境問題、紛争、人権、貧困、パンデミックなど様々な困難に直面しています。その問題の本質をとらえ、自分に何ができるのかを考え、様々な国籍・背景を持った人々と協働していくために、本学部では、Humanities(人間と文化)、Societies(社会と共生)、Global Studies(グローバル・スタディーズ)の3つの分野の知識と方法論を学んでいきます」
3つの分野でリベラルアーツを学び、世界に通用する教養力を磨く
1年次の海外スタディ・ツアーで興味を発見し
3年次のニューヨーク留学で学びの集大成へ
体験型プログラムの具体例を見ていこう。
まずひとつ目が、1年次の7月に実施される「海外スタディ・ツアー」だ。
「入学後の6ヶ月間を『グローバル・チャレンジ・ターム』と位置づけ、学生一人ひとりが、何を学び、何を目指すのかを見つける期間としています。ツアーでは2週間の滞在を通じて、世界のリアルに触れ、気づきを得ることが最大の目的です」
ツアーの訪問先は、リトアニア、インド、マレーシアのボルネオ島、エルサレムなど。人道、歴史理解、対立・紛争・連帯、宗教、多文化共生、サステナビリティといったテーマが内在していること、学生が気軽に訪問できるような場所ではないことが選定基準だ。
初年度である2021年度は新型ウィルスの影響で延期を余儀なくされたが、学生の意欲に応えるべく検討を重ね、翌年2月にリトアニアへの訪問が実現した。
「テーマは紛争や人道支援です。リトアニアは歴史上幾度も侵攻を受けてきた国であり、欧州が抱える問題を学べる場。また、日本人外交官の杉浦千畝が第二次大戦下にユダヤ人の窮状を救った地でもあります。一人の勇気ある行動でどれほど多くの命を守ることができるのかを実感することができます」
実は時を同じくして、ロシアによるウクライナ侵攻が始まった。過去の歴史と今起きている事実に直面しなぜこうした悲劇が繰り返されるのか、学生にとって計り知れない経験となったはずだ。
「その後、一部の学生は自主企画でアフリカやネパールを訪問しています。ツアーで知的好奇心が刺激され、世界を知りたい気持ちが強くなったことは間違いありません」
ふたつ目は、3年次後期の「ニューヨーク市立大学(SUNY)への留学」。SUNYは州内に64キャンパスを有する総合大学で、なかでもリベラルアーツに強い7校が選定されている。学生は、自身の研究テーマや将来のキャリアなどを踏まえて留学先を決定する。
「例えば、海外スタディ・ツアーでエルサレムへ行き、宗教への関心を深めた学生がSUNYで宗教学を履修する、といったことを想定しています。日本でも宗教学は学べますが、ユダヤ教の専門科目はありませんし、人権問題が身近なニューヨークだからこそ学べることがあると考えます」
学習ポートフォリオやメンター制度を通じて
学びを将来のキャリアにつなげていく
留学先で有意義な学びを得るためにはその前後も重要だ。留学に行くまでの間に学生が必要な知識を身につけられるよう手厚い支援を行うのはもちろん、帰国後の振り返りも欠かせない。単に良い思い出で終わらせないために、「何を見て、何を感じたのか」しっかりと内在化させる必要がある。そのため、学生一人ひとりがポートフォリオを作成し、過去の体験と現在の学び、将来のキャリアを結びつけて捉えられるよう指導を行っている。
さらに、こうした学びを将来のキャリアへつなげていくために、2022年度から「GLAキャリア・メンター制度」を開始した。社会起業家やNPO主宰者、国家公務員経験者、キャリアコーチなどをメンターに迎え、1対1でのアドバイスを行うというもの。2年生が対象で、1年間にわたるセッションを通じて自身のキャリア目標を具体化していくという。
「理工学などと比べ、一見、リベラルアーツは学ぶ意義を見出しにくいかもしれません。しかしChatGPTのようなAIが台頭する時代にこそ、必要な学問だと私たちは考えます。AIは過去のデータに基づいて確率的な判断はできても、物事の良し悪しは判断できません。GLA学部では、グローバルな視点を持ち、人間にとって何に価値があるのかを判断できる人材を育てたいと考えています」と朴教授は期待に目を輝かせた。