横断的な学びで専門知識を広げ、問題解決力を高める
苅谷教授が語る通り、産業構造の複雑化が進む現代社会では、分野横断の流れが加速している。例えば、脱炭素の視点から開発が急がれている電気自動車においても、機械工学はもとより、電気モーターや制御回路などに関する電気工学、軽量化するための材料工学、クルマと社会をつなぐ情報通信など、横断的な知識とスキルが求められている。
「産業構造が複雑化するなか、縦割りの専門学科だけでできることは限られています。学生が自分の専門性を軸にしながら分野を横断した新たな学びを取り入れて、課題解決力を培っていくことが求められているのです」
課程制の導入により、教員と学生は従来の学科所属から、教員は学部、学生はコースに所属することになる。その結果、教員は部内の多様なコースの科目を担当でき、学生も複数のコースの科目を横断的に受講できるようになる。
「技術者として社会で活躍するためには、専門知識やスキルが不可欠です。自分の属するコースを専門性の軸にしつつ、他コースの科目を履修して専門知識を広げ、問題解決力を高める、というのが課程制のコンセプトです。つまり、自分が所属するコースの専門分野について深く学びながら、学びの幅を大きく広げられるわけです」
このように課程制工学部では、主コースの学びに主軸を置きつつも、自らのニーズに合わせて他分野の知識も体系的に学べる自由度の高いカリキュラムが導入されるわけだが、分野を横断して学ぶ仕組みの核となっているのが「分野別科目群」だ。これは各コースが提供する多様な専門分野を、「AI」「ロボット工学」「エネルギー・モビリティ」など、19のテーマでグルーピングしたもので、他の分野を学びたい学生のニーズに合わせて12単位以上、自由に組み合わせながら履修できる。
また、実践を重視するため、1年前期から「全分野に触れる」科目を用意。卒業研究も従来の4年次から3年次へと前倒しするとともに、希望に合わせて他分野の研究室に一定期間“学内留学”できる制度(学内研究留学)も設けている。そのうえで一定の条件を満たせば、副コースとして修了認定を受けることも可能にした。認定を受けるには、特定の分野別科目群10単位と学内研究留学2単位の取得が必要となるが、複数分野の知識を有することが認められれば、対外的にアピールできるため、就職活動などでも有利になる。
「より幅広い分野領域を学びたい学生は、分野別科目群の中から広く履修し、専門性を深めたい学生は、自コースの専門科目をより多く修得する。学生のニーズに応じてフレキシブルに学び方を選択できるのが、カリキュラムの特長となっています」
工学部の改組を原動力に大学全体を刷新していきたい
しかし、今回の課程制の導入は、1949年以来継続してきた学科制に終止符を打つ大改革だったことから、教員の中には戸惑いや導入を不安視する声もあったという。
「新たな制度を導入するには勇気がいります。しかし、時代の変化に対する危機感は強く、今こそ学びのあり方を一気に変えていかなければなりません。課程制への移行は、教育を変えるために、まず私たち自身が変わるのだという宣言でもあります」と、苅谷教授は今回の改組への想いをあらためて強調する。
また、課程制への移行を進める一方で、芝浦工業大学では現在、教職員一体で学内全体の運営改革にも取り組んでいる。教員の働き方などを刷新することで、より効率的な大学運営につなげていくことが目標だ。
「工学部の課程制導入がカリキュラムだけでなく、大学全体を変えていくエンジンになればと考えています」と苅谷教授。最後に、課程制工学部で新たに学ぶ学生たちに対しては、「分野横断型の学びで身に付けた問題解決力を活かして、卒業後は、建学の精神にある『社会に貢献する技術者』として活躍してほしい。そのために、私たち教職員も果敢に挑戦していきます」と、激励の言葉を送った。