日本政府はこれからの成長戦略として、デジタル化(DX)とグリーン化(GX:グリーン・トランスフォーメーション)の2つが柱になるとしており、文部科学省は、成長分野として「デジタル・グリーン等」という表現を多く使っています。令和4年度補正予算において、大学・高専機能強化支援事業で3002億円の基金を造成し、特定成長分野への学部再編等に対しての支援(支援1)と、高度情報専門人材の確保に向けた機能強化(支援2)を行っており、この支援により、「デジタル」に関係する学部学科の新設や定員増、大学院の定員増の予定が多く発表されています。
この中には、「グリーン」に関係する新設学部学科も一部含まれていますが、「デジタル」の新設があまりにも多すぎて、「グリーン」が目立っていません。現在、「グリーン」に関係する学部学科はどのようになっているのでしょうか?また、どのような研究に対して支援が行われているのでしょうか?
そもそも「グリーン」とは具体的にどのような分野なのか?
2020年の菅政権時代に、日本が目標として掲げた「2050年カーボンニュートラル」を達成するために、「グリーン成長戦略」が作成されました。グリーン成長戦略では、産業政策・エネルギー政策の両面から、成長が期待される14の重要分野について実行計画を策定し、国の政策支援を集中させています。
成長が期待される14の重要分野は、次のように定められています。エネルギー関連産業では、「洋上風力・太陽光・地熱」「水素・燃料アンモニア」「次世代熱エネルギー」「原子力」。輸送・製造関連産業では、「自動車・蓄電池」「半導体・情報通信」「船舶」「物流・人流・土木インフラ」「食料・農林水産業」「航空機」「カーボンリサイクル・マテリアル」。家庭・オフィス関連産業では、「住宅・建築物・次世代電力マネジメント」「資源循環関連」「ライフスタイル関連」。
理工農系の技術に関わる分野が多いのですが、マネジメントに関わる内容もありますので、学部でいえば文理融合系学部・社会科学系学部・家政系学部も関係していると言えそうです。しかし、「グリーン」という学部系統があるわけではないため、高校生への認知は低いと考えられます。
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革新的GX技術創出事業で496億円の基金を造成し、大学等の機器整備や研究開発へ支援(文部科学省 令和4年度補正予算)
2050年カーボンニュートラル実現等の野心的な目標達成には、既存技術の展開・実装のみでは達成が困難であり、「革新的GX技術」の創出が不可欠であるとして、令和4年度補正予算において、革新的GX技術創出事業で496億円の基金を造成しています。この基金を使い、「蓄電池」、「水素」、「バイオものづくり」の3つ領域において、機器整備や研究開発の支援することを決め、革新的GX技術について公募を行い、国立78大学・公立8大学・私立15大学を含む計118件から応募が出ています。グリーン成長戦略の中で14の重要分野が示されていますが、「蓄電池」、「水素」、「バイオものづくり」の3つ領域にさらに絞り込んで、重点的に支援を行っていく方針のようです。
2023年10月3日には、採択結果31件が以下のように発表されています。大学・高専機能強化支援事業で3002億円の基金については、学部再編に使われていますが、革新的GX技術創出事業については、既存の大学・大学院・研究機関の機器整備や研究開発への支援となっています。
革新的GX技術創出事業 2023年度研究開発提案募集の概要と採択結果より、US進学総研が一覧化
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特定成長分野への学部再編等に対しての支援(支援1)採択校や、新設構想発表済の「グリーン」分野の学部学科も複数あるが、エネルギー技術に関係するものは少ない
大学・高専機能強化支援 特定成長分野への学部再編等に対しての支援(支援1)において、「デジタル」に関する学部学科の新設が多くなっていますが、「グリーン」に関係する学部学科も含まれています。(支援1)において、「環境」「農」「食」「グリーン」が新設する学部学科名に入っているものや、今年度の申請・採択はないが、ホームページ等ですでに新設構想を発表している大学もあわせてピックアップしていくと以下のようになります。これを見ると、革新的GX技術創出事業とは内容がかなり異なることが分かります。こちらは、理工農系学部のエネルギー技術の研究開発というよりは、DXにも関係した文理融合系の分野の新設学部学科が多い傾向が見られます。
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「グリーン」は重点分野の割に、人材育成への支援が少ないのでは?また、他にも重要な分野もある
GXを実現するには、さまざまな用途でDXが欠かせないため、まずは「デジタル」に関係する人材育成を優先して進めているということもあるかもしれません。それでも、「グリーン」分野の中で、特に技術に関わる部分の人材育成への支援が少ないのではないかと感じます。グリーンの分野が学科単位では分けづらいという理由も大きいと考えられるため、理工農という大きな括りにして推進しているということなのでしょうが、高校生が今後成長していくと認知しているのは、「デジタル」に偏っていると言えるのではないでしょうか。
科学技術・イノベーションは成長戦略の重要な柱と位置付けられ、過去の延長線上の政策では世界に勝てないという認識の下、「統合イノベーション戦略」を政府が毎年策定しています。
この「総合イノベーション戦略」の中で、戦略的に取り組むべき基盤技術として、(1)AI技術(2)バイオテクノロジー(3)量子技術(4)マテリアルが、戦略的に取り組むべき応用分野として、(5)健康・医療(6)宇宙(7)海洋(8)食料・農林水産業が、挙げられています。
成長分野は、「デジタル・グリーン等」と表現されることが多くありますが、このように「デジタル」「グリーン」以外にも複数あります。まんべんなく支援していくことはできないかもしれませんが、これから進学する分野を決めていく高校生や大学生のためにも、まず進路先をアドバイスする立場にある人達も、この流れを理解しておく必要があるのではないでしょうか。